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容量市場の指標価格が約2倍に ― 上限価格に張り付いた実績から読む

2026.08.20 ・ 系統用蓄電池

蓄電池の収益源のひとつである容量市場で、価格の目安が2倍になりました。ただ「2倍になったから収入が2倍」という話ではありません。実績の数字を追うと、もう少し込み入った構造が見えます。

指標価格が約2倍になりました

2026年度メインオークション(対象実需給年度は2030年度)の数字です。

指標価格(Net CONE)は……20,911円/kW。また、需要曲線における上限価格(Net CONEの1.5倍)は、31,366.5円/kWであった。(【参考】2025年度メインオークションにおける指標価格:10,075円/kW

指標価格(Net CONE)と上限価格(=その1.5倍) 単位:円/kW 2025年度メイン 10,075 上限 15,112.5 2026年度メイン 20,911 上限 31,366.5 上限価格は指標価格の1.5倍と決まっています。指標価格が倍になれば、上限も倍になります。 直近の約定は、この上限に張り付いていました(次の表)。だからこの変化は小さくありません。 ただし応札が増えれば上限からは離れます。過去には指標価格の3分の1近くまで下がった年もあります。
指標価格と上限価格の変化。上限は指標価格の1.5倍と定められているため、両方が同じ倍率で動きます。

指標価格と約定価格は別物です

まず用語を押さえます。Net CONE(指標価格)は、資料でこう定義されています。

新規発電設備の固定費用から電力量取引やアンシラリーサービスによる収益を差し引いた正味固定費用(CONE=Cost of New Entry)

新しく電源を建てる人が、他の収入を差し引いてなお必要とする固定費、という意味です。これは需要曲線を引くための基準であって、そのまま支払われる金額ではありません。

実際の約定価格は、需要曲線と供給曲線の交点で決まります。方式はシングルプライスオークションで、エリアごとに価格が決まる仕組みです。

ただし直近は上限に張り付いていました

ここが本題です。2025年度に実施されたメインオークション(対象実需給年度2029年度)の約定価格を並べます。

エリア 約定価格(エリアプライス)
九州 15,112円/kW
東北 15,111円/kW
東京 15,111円/kW
北海道 14,972円/kW
中部・北陸・関西・中国・四国 12,388円/kW

このときの指標価格は10,075円/kW、上限価格はその1.5倍の15,112.5円/kWでした。

九州の15,112円/kWは、上限価格ちょうどです(円未満切り捨て)。東北・東京の15,111円/kWも、ほぼ上限。そして9エリアすべてで、約定価格が指標価格を上回っています

供給力が不足していて、価格が上限まで押し上げられている状態です。この状況が続くなら、上限価格が15,112.5円から31,366.5円へ倍増する影響は小さくありません。

過去は4倍近く動いています

とはいえ、常に上限に張り付いてきたわけではありません。メインオークションの全国平均単価は、こう推移しています。

実施年度 対象実需給年度 約定単価(全国平均)
2020年度 2024年度 14,137円/kW
2021年度 2025年度 3,495円/kW
2022年度 2026年度 5,226円/kW
2023年度 2027年度 7,847円/kW
2024年度 2028年度 11,134円/kW

初回は高値、2回目で4分の1まで急落し、その後は上昇が続いています。応札が増えれば下がり、足りなければ上限に向かう。それだけの話です。

指標価格が2倍になったことは、天井が2倍になったということであって、約定が2倍になると決まったわけではありません。ただ、いまは天井に当たっている局面です。

蓄電池が参加できる2つの枠

容量市場の電源等の区分は4つあります。蓄電池に関係するのは、そのうち2つです。

1つ目は安定電源。

安定電源 期待容量が1,000kW以上の安定的な供給力を提供するもの 例:火力、原子力、水力……、蓄電池(ただし、放電可能時間3時間以上に限る)、地熱、バイオマス、廃棄物

期待容量1,000kW以上、かつ放電可能時間3時間以上。低圧の蓄電池は単体ではどちらも満たしません。 50kWを100kWhで出す設計なら放電可能時間は2時間です。

2つ目が発動指令電源です。低圧はこちらに乗ります。

発動指令電源 ディマンド・レスポンス(DR)、安定的に供給力を提供できない期待容量が1,000kW以上の電源、および単体の期待容量が1,000kW未満の電源を組み合わせることにより、期待容量1,000kW以上の供給力を提供するもの

電源の種類を限定していません。低圧の蓄電池を束ねて1,000kW以上にすれば、発動指令電源として参加できます。 実際、2029年度向けオークションでの応札容量は、発動指令電源が715万kW(応札全体の4.2%)で、安定電源として登録された蓄電池の169万kW(1.0%)を上回っています。

3時間の壁は、形を変えて残ります

「安定電源は放電3時間以上、発動指令電源にはその制限がない」と読めますが、実務では別の形で同じ壁が来ます。

資料に明記されています。

発動指令電源では、調整係数反映前の容量を供給力として3時間継続して提供することがリクワイアメントとなる。

3時間の継続提供が、はっきり要件として定められています。しかも調整係数を反映する前の容量、つまり応札した導入量そのままを3時間出す必要があります。

実効性テストの手順も同じ長さです。

対象事業者は、属地一般送配電事業者から夏季(7月1日~9月30日)もしくは冬季(12月1日~2月末日)の特定の6コマに関して、3時間前までに実効性テストの実施指令を……受令します

6コマは30分×6で3時間。設備の要件として書かれていないだけで、求められる中身は安定電源と変わりません。

実効性テストは簡単ではありません

2026年度の実需給に向けた実効性テストの結果が公表されています。

電源等リスト単位では2割程度のリストが契約容量を100%達成する結果となった。 1,000kWを満たせず、全量が市場退出となる電源等リストもあった。

契約容量を100%出せたのは、リスト単位で2割程度です。束ねたポートフォリオが1,000kWを割り込み、市場から出ることになった例もあります。応札して落札されても、出せなければ残れないという構造です。

ここから実務的な結論が出ます。100kWhの蓄電池で50kWを出すと2時間で尽きるため、50kWのままでは3時間もちません。応札する容量を下げれば成立します。 100kWhを3時間で割ると約33kWですから、設備出力の3分の2程度が応札できる容量の目安になります。

つまり50kWの設備を束ねても、容量市場に出せるのは1基あたり33kW相当という計算です。設備の定格をそのまま容量市場の収益計算に使うと、5割ほど過大になります。 収支を見るときは、何kWで応札する前提かを確認してください。

ただし落札は保証されません

ここが収支を組むうえで重要な点です。発動指令電源には応札上限があります。

メインオークションにおける応札上限容量(=想定導入量上限)は、全国H3需要の4%

2029年度向けでは、この上限を超えたエリアがありました。ただし全国一律ではありません

状況 エリア 結果
超過なし 北海道・東北・東京・北陸・関西 対象となる全電源を落札
超過あり 中部・中国・四国・九州 実効性達成率で選別、同率はランダム

資料の記載です。

「超過なし」の「北海道、東北、東京、北陸、関西」の各エリアでは、約定処理の対象となる全電源を落札電源とした。 「超過あり」の「中部、中国、四国、九州」の各エリアでは、応札上限容量を超過する点において、同一価格の応札が複数存在したため、実効性達成率により落札・非落札電源を決定し、加えて、一部のエリアにおいては、実効性達成率が同じ応札が複数存在したため、ランダムに落札・非落札電源を決定した。

抽選まで行くのは、枠が埋まったエリアだけです。5エリアでは応札した全電源が落札されています。中部で開発する場合と東京で開発する場合では、この点の見通しが変わります。

非落札の割合も公表されています。全体で約16%でした。

非落札の割合
参入済(前回の実効性テストに参加) 16.0%
新規参入 16.3%

新規参入が不利になっているわけではありません。 実効性達成率で選別されると聞くと実績のある事業者が有利に見えますが、数字はほぼ同じです。

さらに調整係数も掛かります。2029年度向けで事後的に算定された発動指令電源の調整係数は、北海道が約90.9%、その他のエリアは100%でした。応札容量にこの係数を反映した容量で約定処理が行われます。

収支シミュレーションに容量市場の収益を織り込むこと自体は、制度上おかしくありません。ただし確定した収入として置くと過大評価になります。枠が埋まっていて落札されない年があり得るためです。私たちがご説明するときは、容量市場の分は「入れば上振れ」の位置づけで、入らない前提の収支も並べてお見せしています。

低圧の蓄電池の収益の柱は、引き続き需給調整市場をアグリゲーター経由で使う形です。仕組みは低圧系統用蓄電池とは、契約で見る点はアグリゲーターをどう選ぶかにまとめました。

岐阜県内の蓄電所の施工現場。市場の制度は動きますが、現地の条件を確認する作業は変わりません
岐阜県内の蓄電所の施工現場。市場の制度は動きますが、現地の条件を確認する作業は変わりません

目標調達量も増えています

項目 2025年度メイン 2026年度メイン
目標調達量 1億8,996.6万kW 1億9,690.5万kW
指標価格(Net CONE) 10,075円/kW 20,911円/kW
上限価格 15,112.5円/kW 31,366.5円/kW

目標調達量は693.9万kW(約3.65%)の増加で、全国H3需要の約121.6%にあたります。2030年度の全国H3需要は1億6,190万kWで前年想定から約11万kWの増加ですから、需要はほぼ横ばいなのに調達量が増えていることになります。偶発的な需給変動分や追加設備量の見直しによるものと資料に書かれています。

応札は2026年10月です

時期 内容
2026年7月末頃 募集要綱の確定・公表、需要曲線の公表
2026年8〜9月 参加登録・応札準備
2026年10月 応札期間
2027年1月以降 約定結果の公表
はかせ

指標価格が2倍になった、という見出しだけを読むと収入も2倍かと思うが、そうではない。上がったのは天井じゃ。ただし直近は九州が上限ちょうどで約定しておる。天井に当たっている状態で天井が上がるなら、話は別じゃな。低圧を束ねて参加する場合は、落札されるかどうかも見ておくことじゃ。

はかせ/制度解説

需給調整市場とは逆方向に動いています

蓄電池の収益は、卸電力市場・需給調整市場・容量市場の3本柱です。全体像は系統用蓄電池の収益モデルで解説しています。

いま、この3つは別々の方向に動いています。需給調整市場の上限価格は9月1日から10円へ引き下げられる一方、容量市場の指標価格は2倍になりました。片方が細り、片方が太る。 1つの市場に寄せた収支が制度変更のたびに揺れるのは、この構造があるからです。

需給調整市場の側は上限価格が9月1日から10円へにまとめました。

よくある質問

指標価格が2倍になれば、収入も2倍になりますか。 なりません。指標価格は需要曲線を引く基準で、約定価格は応札の状況で決まります。ただし上限価格は指標価格の1.5倍と定められているため、上限は連動して2倍になります。直近は上限付近で約定しているので、影響は小さくありません。

なぜ指標価格が上がったのですか。 算定の諸元(モデルプラント)の見直しと、最新の経済指標を用いた算定によるものと資料に書かれています。新しく電源を建てるコストの上昇が反映された形です。

低圧の蓄電池も容量市場に参加できますか。 できます。安定電源としては要件(期待容量1,000kW以上・放電可能時間3時間以上)に届きませんが、発動指令電源として束ねる形であれば参加できます。

抽選になるのは必ずですか。 いいえ。応札上限を超えたエリアだけです。2029年度向けでは中部・中国・四国・九州が超過し、北海道・東北・東京・北陸・関西では対象となる全電源が落札されています。

新規参入は不利ですか。 公表された数字では、非落札の割合は参入済16.0%、新規参入16.3%でほぼ同じでした。実効性達成率で選別されると聞くと実績のある事業者が有利に見えますが、そうはなっていません。

放電可能時間3時間とは、どういう意味ですか。 定格出力で3時間放電し続けられる容量、という意味です。50kWの出力なら150kWh以上が目安になります。100kWhの設計では2時間となり、安定電源の要件は満たしません。

発動指令電源なら3時間の制限はないのですか。 設備の要件としては書かれていませんが、実効性テストで特定の6コマ(=3時間)の供給を求められるため、実務上は同じ壁が来ます。応札する容量を下げれば成立します。100kWhの設備なら約33kWが3時間出せる容量の目安です。

収支シミュレーションに容量市場の収益を入れてよいですか。 制度上は入れられます。ただし落札が保証されないため、確定収入として置くと過大になります。入らない前提の収支と、入った場合の収支を並べて見ることをご検討ください。

すでに稼働している蓄電所には影響しますか。 今回のオークションは2030年度の実需給が対象です。既存設備がどの年度の契約を持っているかで関わり方が変わります。

ご相談の前に

収支の見直しをお考えの方、これから検討される方、どちらもご相談ください。制度が動いている局面なので、複数のシナリオを置いた形で整理してお渡しします。

投資・法人としての検討は投資家・法人の方へをご覧ください。

この記事の参照元

  • 資源エネルギー庁「容量市場について」(2026年7月14日 第4回 電力安定供給ワーキンググループ 資料5)— 指標価格、上限価格、目標調達量、需要想定、スケジュール
  • 電力広域的運営推進機関「容量市場メインオークション約定結果(対象実需給年度:2029年度)」(2026年1月20日、同23日訂正)— エリア別の約定価格、Net CONEの定義、電源等の区分と蓄電池の要件、蓄電池の応札容量
  • 電力広域的運営推進機関「容量市場業務マニュアル 実効性テスト編」— 実効性テストにおける6コマの供給および3時間前の指令
  • 過去のメインオークションの全国平均単価の推移は、各回の約定結果公表値をもとにした報道(スマートジャパンほか)によります

引用は各資料の公表時点の記載によるものです。実際の募集要綱および需要曲線は電力広域的運営推進機関の公表内容をご確認ください。

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