Column | 系統用蓄電池
需給調整市場の上限価格が9月1日から10円へ ― 蓄電池の収益前提をどう見直すか
2026.08.20 ・ 系統用蓄電池
蓄電池の収益シミュレーションを置き直す必要がある変更です。9月1日が目前なので、決まっていることと、その背景にある数字を整理します。
何が変わるのか
需給調整市場の上限価格が、段階的に引き下げられています。
15円から10円は5円の引き下げで、率にすると約33%です。2026年7月14日の第4回電力安定供給ワーキンググループで示され、電力需給調整力取引所(EPRX)が7月30日に公表しています。
対象になる商品
需給調整市場は5つの商品区分に分かれており、今回動くのはそのうちの一部です。
| 商品区分 | 上限価格 |
|---|---|
| 一次調整力 | 15円 → 10円(9月1日受渡〜) |
| 二次調整力① | 15円 → 10円(同上) |
| 複合商品 | 15円 → 10円(同上) |
| 二次調整力② | 7.21円 |
| 三次調整力① | 7.21円 |
| 三次調整力② | 設定なし |
蓄電池が主に応札するのは複合商品なので、影響を直接受けます。
なぜ引き下げられるのか
2026年3月13日の取引から、一次〜三次①が前日取引に移行しました。あわせて、応札未達と調整力調達コストの高騰を防ぐ観点から、募集量を3σ相当から1σ相当に削減し、上限価格を19.51円から15円に引き下げています。
そのうえで、競争状況の改善が見られない場合は10円、7.21円と段階的に引き下げる方針が、当初から示されていました。今回はその方針に沿った次の段階です。
蓄電池はどう影響を受けるか
ここが本題です。審議会の資料には、電源種別の応札実績が載っています。数字を拾うと、状況がはっきりします。
上限価格付近(14円以上)の応札の内訳
| 火力 | 揚水 | 蓄電池 | VPP/DR | |
|---|---|---|---|---|
| 前日取引化前 | 14.3% | なし | 84.4% | 1.3% |
| 前日取引化後 | 59.8% | 0.7% | 37.7% | 1.7% |
前日取引化の前、上限価格に近い高値帯の応札は、その8割以上が蓄電池でした。蓄電池が高値帯に集中していた構図です。
電源種別の平均応札単価(複合商品)
| 前日取引化前 | 後 | |
|---|---|---|
| 火力 | 2.20円 | 2.95円 |
| 揚水(水力) | 1.15円 | 1.77円 |
| 蓄電池 | 11.35円 | 8.45円 |
| VPP/DR | 9.73円 | 14.47円 |
蓄電池の応札単価は11.35円から8.45円へ下がっています。資料は「応札単価は低下したものの、引き続き高単価」と評しています。火力の2.95円と比べれば、水準の差は明らかです。
一方で、蓄電池の平均応札量は日あたり6.2百万ΔkW・hから7.4百万ΔkW・hへ増えています。単価が下がりながら量が増えた、という動きです。
つまり、上限価格の引き下げは、蓄電池にとって「これから起きること」ではなく、すでに始まっていた流れの延長線上にあります。11.35円から8.45円へ下がった実績の上に、10円という上限が乗る。単価がすでに8.45円まで来ているなら、10円の天井が直ちに効くとは限りません。ただし高値帯で稼いでいた分は、確実に細くなります。
収支の前提をどう置き直すか
複数の価格シナリオで見るのが実際的です。私たちがご説明するときは、良い前提だけを並べた数字はお見せしません。判断の役に立たないためです。
見直すのは次の3点です。
上限価格を10円として引き直す。 15円前提で作られた収支は、上限に張り付く想定の部分が過大になっています。
7.21円まで下がった場合も見ておく。 検討段階ではありますが、方針として明示されています。ここで成り立たない計画は、成り立つ前提が細すぎます。
需給調整市場以外の収益を数える。 卸電力市場の価格差、容量市場。1つの市場に寄せた収支は、制度変更のたびに揺れます。収益の構造は系統用蓄電池の収益モデルで解説しています。
「上限価格が下がった=儲からない」と早合点しないことじゃ。資料を見ると、蓄電池の応札単価はすでに8.45円まで下がっておる。大事なのは、いくらの前提で収支を組んでいたか。15円に張り付く前提なら、それは組み直しじゃな。
はかせ/制度解説
低圧の場合はどう考えるか
低圧(50kW未満)はアグリゲーターを通じて市場に参加します。そのため上限価格の変化は、アグリゲーターとの精算条件を経由して届きます。何を基準にいくら支払われるのかが契約で決まっているため、制度の数字だけを見ても手取りは分かりません。
契約で見る項目はアグリゲーターをどう選ぶかにまとめました。低圧そのものの仕組みは低圧系統用蓄電池とはをご覧ください。
よくある質問
すでに稼働している蓄電所も対象ですか。 市場のルールなので、9月1日受渡分から全事業者に適用されます。既存・新規の区別はありません。
7.21円まで下がるのは決まっていますか。 決定ではありません。競争状況を見て判断する方針が示されている段階です。ただし収支の検討では、下がった場合も置いてみてください。
上限価格が下がると応札しても意味がなくなりますか。 そうとは限りません。資料によれば、上限価格付近の応札は一部不落となっているものの、引き続き約定できる状況とされています。
投資の判断はどう変えるべきですか。 一つの市場に依存した収支から、複数の収益源を数える収支へ。前提の置き方の問題であって、事業そのものの成否とは別の話です。
ご相談の前に
案件をお持ちで収支の見直しをお考えの方、これから検討される方、どちらもご相談ください。複数の価格シナリオを置いた形で整理してお渡しします。
投資・法人としての検討は投資家・法人の方へをご覧ください。
この記事の参照元
- 資源エネルギー庁「需給調整市場について」(2026年5月13日 資料8)— 上限価格の引き下げ方針、電源種別の応札単価・応札量、上限価格付近の応札内訳は本資料によります
- 9月1日からの10円への引き下げは、2026年7月14日の第4回電力安定供給ワーキンググループで示され、電力需給調整力取引所(EPRX)が同年7月30日に公表しています
制度の運用は変わる可能性があります。実際の検討にあたっては、資源エネルギー庁およびEPRXの最新の公表資料をご確認ください。