Column | 系統用蓄電池
系統用蓄電池の収益モデルを図解
― 卸電力・需給調整・容量市場の3本柱
2026.06.22 ・ 系統用蓄電池
※ 各市場の制度・商品区分・価格は時期によって変わります。最新の情報は、各市場の運営機関や資源エネルギー庁の公表資料をご確認ください。
系統用蓄電池の話で必ず出てくるのが、「で、どうやって儲かるのか」という問いです。発電所のように電気を売るわけではないので、収益の絵が見えにくいのは当然だと感じます。この記事では、系統用蓄電池の収益を支える3つの市場を図解しながら、それらを重ねて使う考え方と、見落としがちなコスト・リスクまで、開発の現場目線で整理します。総論を先に押さえたい方は系統用蓄電池とはからどうぞ。
目次
収益の全体像|3本柱を重ねて使う
系統用蓄電池の収益は、ひとつの市場だけでまかなうものではありません。性格の違う3つの市場を組み合わせ、収益の波をならしながら積み上げます。まずは全体像を一枚で押さえてください。
① 卸電力市場のアービトラージ
1本目の柱は、卸電力市場での価格差取りです。電気の卸価格は時間帯で上下します。太陽光が多く出る昼や、需要が落ちる夜間は安くなり、需要が集中する夕方は高くなりやすい。安いときに充電し、高いときに放電すれば、その差が手元に残ります。
ただし、価格差はいつも大きいわけではありません。差が小さい日もあれば、想定より広がる日もあります。私たちが試算するときは、毎日きれいに差が取れる前提では置かず、振れることを見込んで保守的に見ます。1日に充放電できる回数にも限りがあるため、「いつ充電して、いつ放電するか」の運用がそのまま成績に効いてきます。
② 需給調整市場の調整力
2本目は、需給調整市場で提供する「調整力」です。電力は、つくる量と使う量がずれると周波数が乱れます。蓄電池は応答が速く、急な増減を細かく整えられるため、この調整役として価値を持ちます。
需給調整市場にはいくつかの商品区分があり、求められる応答の速さや継続時間が異なります(区分の名称・条件は最新の制度をご確認ください)。区分ごとに参加の条件が決まっているので、自分の設備がどこで戦えるかを見極める作業が要ります。応答の速さを活かせる蓄電池にとって、相性のよい収益源です。
③ 容量市場の容量価値
3本目は、容量市場で評価される「容量価値」です。これは実際に放電した量ではなく、必要なときに供給できる状態を保っていること、つまり「備えそのもの」に対する対価です。需要のピークや非常時に向けて電源を確保しておくしくみで、安定した収益の土台になりやすい一方、参加には条件と義務が伴います(制度の詳細・価格は最新の公表資料をご確認ください)。
3つの性格の違い
卸電力は「価格差しだいで上下する変動収益」、需給調整は「待機しつつ呼ばれると得る対価」、容量市場は「備えに対する比較的安定した収益」。性格が違うからこそ、重ねると全体がならされます。
| 市場 | 得るもの | 性格 |
|---|---|---|
| ① 卸電力市場 | 安く充電・高く放電した価格差 | 変動が大きい |
| ② 需給調整市場 | 調整力(速い応答)への対価 | 呼ばれて得る |
| ③ 容量市場 | 供給力を備える容量価値 | 比較的安定 |
マルチユースで収益をならす
3つの市場を同時に、あるいは時間帯で切り替えながら使う考え方を「マルチユース」と呼びます。ひとつの市場に賭けると、その市場が振れたときに収益ごと振れてしまいます。複数を組み合わせれば、片方が弱い時期をもう片方が支えます。
もっとも、単独の蓄電池が3つの市場をすべて直接さばくのは現実的ではありません。複数の設備をまとめて運用するアグリゲーターと組み、市場の状況に合わせて充放電を最適化してもらう形が一般的です。どの市場にどれだけ振り向けるかは、運用の腕の見せどころになります。
コストとリスク|先に織り込む
収益の話だけでは事業の絵は完成しません。私たちが投資家の方に資料をお渡しするときは、良い面だけでなく、止まりうる要因も同じ重さで並べます。最低限おさえるべきは次の3点です。
- 初期費用/蓄電池本体、パワーコンディショナ、系統連系の工事、用地造成など、まとまった投資が先に出ます。
- 劣化と更新/充放電を繰り返すほど容量は少しずつ落ちます。劣化を見込んだ運用と、保証・更新の前提を最初に置く必要があります。
- 市場変動と制度/各市場の価格やルールは動きます。前提が変われば収支も変わるため、保守的な幅で見ておきます。
こうした要素を最初に織り込んでおけば、運用が始まってから慌てずに済みます。逆に、収益の上振れだけを前提にした計画は、市場が想定どおりに動かなかったときに苦しくなります。地に足のついた前提づくりが、結局はいちばんの近道だと考えています。
よくある質問
1つの市場だけで収益は成り立ちますか?
収益の試算はどう行いますか?
蓄電池の劣化は収益にどれくらい影響しますか?
収益を試算するときの前提の置き方
3本柱の中身がわかっても、実際の収支は前提の置き方ひとつで大きく変わります。私たちが投資家の方に試算をお渡しするときは、上振れを当て込んだ数字ではなく、保守的な中心値と幅で示すようにしています。市場が思いどおりに動かない年があっても耐えられるか、という目線で見るためです。最低限そろえる前提は次のとおりです。
- 設備の規模(出力と容量)と、1日に充放電できる回数の見込み
- 各市場の前提価格。1つの強気シナリオではなく、保守・標準の幅で置く
- 充放電のロス(往復の効率)と、年を追うごとの劣化の見込み
- 運用・保守の費用、アグリゲーターへの委託にかかる費用
これらを並べたうえで、価格が下振れした年でも資金繰りが回るかを確かめます。逆に、好調な前提だけを積み上げた試算は、見栄えは良くても現実の振れに弱いものです。地味でも幅を持った前提のほうが、結局は判断材料として信頼できると考えています。具体的な数値の置き方は、案件の規模や立地によって変わるため、個別に詰めていきます。
まとめ
系統用蓄電池の収益は、卸電力・需給調整・容量市場という性格の違う3本柱を重ねて組み立てます。マルチユースで波をならし、アグリゲーターと組んで運用を最適化するのが基本形です。そのうえで、初期費用・劣化・市場変動を最初に織り込むことが、計画を崩さないコツになります。案件ごとの収支の見方や、用地としての可否は、個別にご相談ください。