Column | 系統用蓄電池
系統用蓄電池の収益モデル ― 3つの市場の性格と、重ねたときの扱い
2026.06.22(更新 2026.08.24) ・ 系統用蓄電池
「で、どうやって儲かるのか」。系統用蓄電池でいちばん多い質問です。発電所のように電気を売るわけではないので、絵が見えにくいのは当然です。3つの市場の性格と、重ねたときに制度上どう扱われるかを、公表資料から具体的に整理します。
総論は系統用蓄電池とは、低圧で参加する条件は低圧蓄電池を束ねて市場に出す条件をご覧ください。
3つの市場は性格が違います
| 市場 | 得るもの | 性格 |
|---|---|---|
| ① 卸電力市場 | 安く充電し高く放電した価格差 | 変動が大きい |
| ② 需給調整市場 | 調整力への対価 | 待機し、応じて得る |
| ③ 容量市場 | 供給力を備える容量価値 | 比較的安定 |
性格が違うからこそ、重ねると全体がならされます。これをマルチユースと呼びます。
① 卸電力市場 ― 価格差を取る
電気の卸価格は時間帯で上下します。太陽光が多く出る昼や需要が落ちる夜間は安くなり、需要が集中する夕方は高くなりやすい。安いときに充電し、高いときに放電すれば、その差が残ります。
ただし価格差はいつも大きいわけではありません。差が小さい日もあります。1日に充放電できる回数にも限りがあるため、いつ充電していつ放電するかの運用が、そのまま成績に効きます。
価格差が生まれる元は、太陽光の出力です。晴天の昼に太陽光が大量に出ると卸価格が下がり、日が落ちて需要が残る夕方に上がります。太陽光が増えるほど昼夜の差は開きやすくなる一方、蓄電池が増えれば差を埋める側も増えます。長期の前提を置くときは、この両方が同時に進むことを見ておく必要があります。
余剰が出た場面では、蓄電池への充電が制度上の順序に組み込まれています。送配電等業務指針は、需給バランス改善用の蓄電設備の充電を、太陽光・風力の出力抑制より前の段階に位置づけています。さらに、一般送配電事業者が調整力としてあらかじめ確保している設備が先に使われます。詳しくは出力制御のとき蓄電池はどの順番で充電されるのかをご覧ください。
つまり卸電力市場での動き方は、その設備が調整力として契約されているかどうかにも影響を受けます。
② 需給調整市場 ― 商品ごとに求められるものが違う
需給調整市場には5つの商品があります。電力需給調整力取引所の商品要件(2026年3月13日 第6版)から、性格の違いが分かる部分を引きます。
| 商品 | 応動時間 | 継続時間 | 回線 |
|---|---|---|---|
| 一次調整力 | 10秒以内 | 5分以上 | 専用線のみ(オフライン監視の場合は不要) |
| 二次調整力① | 5分以内 | 30分 | 専用線のみ |
| 二次調整力② | 5分以内 | 30分 | 専用線 または簡易指令システム |
| 三次調整力① | 15分以内 | 30分 | 専用線 または簡易指令システム |
| 三次調整力② | 60分以内 | 30分 | 専用線 または簡易指令システム |
最低入札量は全商品とも1MW、刻み幅は1kWです。自分の設備がどの商品で戦えるかは、応動時間と回線の要件で決まります。
収支の前提として、必ず押さえておきたい注記があります。
※2 現行は上げ区分のみ調達
上げと下げの両方で稼ぐ前提を置いた収支は、現状と噛み合いません。
単価の前提も動いています。応札不足を受けて一部商品の上限価格が引き下げられます(9月1日から10円へ)。2026年度からは全商品が前日取引になり、入札受付は実需給の前日11時30分から14時、約定処理は前日15時までです。週間商品だった頃に比べ、応札余力が読みやすくなります。
③ 容量市場 ― 備えに対する対価
実際に放電した量ではなく、必要なときに供給できる状態を保っていることへの対価です。小規模な電源は発動指令電源として参加します。定義はこうです。
発動指令電源とは、容量市場において、計量単位(受電点)の期待容量が1,000kW未満の電源や安定的に供給力を提供できない自家発・DR等の組合せ等で期待容量が1,000kW以上の供給力を提供するもの
要件も具体的です。
- 発動指令は一般送配電事業者から実需給の3時間以上前に実施される
- アセスメント対象容量以上の供給力を3時間継続して提供することがリクワイアメント
- 評価対象は受電点での逆潮流分のみ
- 発動指令の回数は年12回程度
3時間の継続が要件なので、100kWhの設備は約33kWとして扱われます。定格50kWで計算すると5割ほど過大になります。
重ねたときにどうなるか
ここがマルチユースの核心です。需給調整市場で約定していて、同時に発動指令を受けたらどうするのか。2023年6月の需給調整市場検討小委員会で整理されています。
これら二つの指令を同時に受けた場合には、調整力指令を優先して応動する方向が整理された その上で、これら二つの指令時間帯において、発動指令容量と需給調整市場での約定量(受電点)に重複がある容量分に限り、容量市場側のリクワイアメントを満たしているものとみなす方向性が示された
つまり、重ねること自体は制度として想定されています。片方を守るために片方を落とす、という構図にはなりません。
マルチユースは言葉だけが独り歩きしがちじゃが、指令が重なったときの扱いまで整理されておる。逆に言えば、そこを説明できん相手は制度を読んでおらんということじゃな。
はかせ/制度解説ただし、低圧を機器個別計測で参加させる場合には未整理の論点が残っています。計測している場所が違うため、重複部分を正しく評価できない可能性が指摘されています。詳しくは低圧蓄電池を束ねて市場に出す条件にまとめました。二階建ての収支を見るときは、この点を確認してください。
収益を削るもの
収益の話だけでは事業の絵は完成しません。最低限おさえるべきは3点です。
初期費用。蓄電池本体、パワーコンディショナ、系統連系の工事、用地造成。まとまった投資が先に出ます。工事費負担金の額は接続検討の回答で示されます(連系までの流れ)。
劣化と更新。充放電を繰り返すほど容量は落ちます。劣化を見込んだ運用と、保証・更新の前提を最初に置きます。
手数料と約定率。低圧の場合はアグリゲーター経由になるため、手数料と、そもそも約定するかどうかが手取りを左右します。アグリゲーターをどう選ぶかにまとめています。
税制は当てにしないでください。売電する蓄電所には中小企業経営強化税制が使えません(理由)。
試算の前提の置き方
私たちがご説明するときは、複数の価格シナリオを置いた収支を並べます。良い前提だけを並べた数字は判断の役に立たないためです。
収支表を受け取ったら、次の6点を確認してください。いずれも本記事で引いた制度資料から導かれるものです。
| 確認すること | 見るべき理由 |
|---|---|
| 上げと下げの両方で計上していないか | 需給調整市場は現行、上げ区分のみ調達とされています |
| 容量市場の収入を定格出力で計算していないか | 発動指令電源は3時間継続が要件。100kWhなら約33kWの扱いです |
| 需給調整の単価に上限価格の引き下げを反映しているか | 応札不足を受けて一部商品の上限が引き下げられます |
| 約定率をどう置いているか | 応札しても約定しなければ収入になりません |
| アグリゲーターの手数料を控除しているか | 低圧は経由が前提。手取りは控除後です |
| 需給調整と容量市場を二階建てにしている場合、計測方式の前提は何か | 機器個別計測との関係に未整理の論点があります |
最後の1点は、低圧を束ねる案件で特に効きます。「両方載せています」と言われたら、どちらの計測方式を前提にしているかを聞いてください。答えられない相手は、制度をそこまで読んでいません。
もう一点、期間の置き方も見てください。蓄電池の法定耐用年数は17年です(減価償却資産の耐用年数等に関する省令 別表第二 番号31「電気業用設備」の「その他の設備・主として金属製のもの」)。これより短い期間で回収を組んだ収支は、前提として強気になります。
よくある質問
3つの市場すべてに自分で参加できますか。 単独の設備で3市場を直接さばくのは現実的ではありません。アグリゲーターと組み、市場の状況に合わせて充放電を最適化してもらう形が一般的です。
どの市場がいちばん稼げますか。 商品ごとに単価も約定のされ方も違い、時期によって変わります。確定した順位はありません。
容量市場の収入は安定していますか。 性格としては比較的安定していますが、発動指令電源には3時間継続などの要件があり、満たせなければ評価に影響します。
上げ下げ両方で稼げると聞きました。 需給調整市場の商品要件には「現行は上げ区分のみ調達」と注記されています。前提をご確認ください。
ご相談の前に
設置予定地の所在地、面積、想定する設備容量。この3つがわかれば、複数シナリオの収支をお出しできます。既にお持ちの試算があれば、前提の置き方を一緒に確認することもできます。
投資・法人としての検討は投資家・法人の方へをご覧ください。
この記事の参照元
- 電力需給調整力取引所「需給調整市場の商品要件と取引スケジュール 第6版」(2026年3月13日)— 5商品の応動時間・継続時間・回線要件・最低入札量・上げ区分のみ調達・前日取引の時間割
- 電力広域的運営推進機関「発動指令電源の機器個別計測での扱いについて」(2026年3月3日 第60回需給調整市場検討小委員会 資料2)— 発動指令電源の定義、3時間継続のリクワイアメント、年12回程度、調整力指令の優先と重複容量の扱い、機器個別計測で残る論点
引用は各資料の公表時点の記載によるものです。各市場の制度・商品区分・価格は変わります。実際の検討にあたっては最新の公表資料をご確認ください。市場価格は変動するため、確定した利回りをお約束できる性質の事業ではありません。